卵にスプーンA
上田 薫(うえだかおる) 1928- 1986(昭和61)年 麻布、アクリル・油彩 130.3×162.0 平成17年度購入
解説
事物をクローズアップし、克明に描き出してきた上田薫は、グラスの水やスプーンのジャム、シロップ、ジェリーといった不定形の物体を主題とするほか、昭和50年代には殻を割って生卵が落下する瞬間をとらえた鮮烈な〈卵〉シリーズを発表して注目を集めました。本作品もそうした〈卵〉のヴァリエーションのひとつです。殻ごと割った半熟卵にスプーンを突っ込み、とろりとした卵黄が殻からあふれだす状態をとらえていますが、スプーンの曲面には画家のアトリエの窓と戸外の様子も映し出されています。自ら写真撮影を行い、その映像をキャンバスに投影して描いているため、アメリカのスーパーリアリズム(なかでも写真を媒体として用いたフォトリアリズム)の影響もうかがえます。物体を写し取る過程で主観や意味を排除していますが、対象が身近にある存在(とりわけ味覚を刺激するもの)であるため、“食”にまつわる記憶や欲望と結びついた記号と化し、私たちはそれらを自らの身体感覚と切り離してとらえることはできません。さらに状況から物体をトリミングして巨大化させることで普遍性を獲得しており、消費社会のシンボルをイコン化したポップ・アートにも関連づけられるでしょう。略年譜
東京都に生まれる。昭和29年、東京芸術大学油画科を卒業し、グラフィックデザインの職につく。昭和31年、GM社ポスター国際コンクールで国際大賞を受賞。抽象画を描いて個展を開催するが、しだいにデザイン業に重点を置くようになった。昭和43年頃から再び制作を始め、47年にはスーパーリアリズムの傾向を示す作品を第7回ジャパン・アート・フェスティバルに出品。コップの水やスプーンにすくったジャム、ジェリーといった不定形の物質を画面一杯に拡大した作品をあらわした。昭和49年、サンフランシスコのトライアングル・ギャラリーにて個展を開催。翌年、第11回現代日本美術展で東京国立近代美術館賞 (12回展では群馬県立近代美術館賞) を受賞。日本国際美術展、安井賞展、国際形象展、明日への具象展、具象絵画ビエンナーレなどにも出品。昭和50年代より落下する卵を主題としたシリーズで注目を集める。この記事は 2014年02月12日に更新されました。