日本画家・鈴木一正氏インタビュー全文(2階コレクション展特別展示)
「野生の生態を描くのではなく、動物園の動物を取材し形を借りて自分を投影した表現をしていきたいです。」
展示作品《共に》について
この作品を制作した2011年は東日本大震災のあった年で、その年は色々な作家が震災に向けてのメッセージを発する活動をされていました。その最中グループ展で大きな作品を制作することになり、僕もメッセージ性のある作品が描けたらと思いました。今まで描きためたスケッチを組み合わせ、種族が違う動物達が揃い一つの方向に向かっていく作品に仕上げました。ノアの方舟みたいなイメージです。
どの作品も背景はあえて描かないようにしています。見てもらう人それぞれの気持ちや生活環境によって色々なものが見えると思うので、場所を特定することやその情景を描くことはしないようにはしています。
―シロクマや先頭の猿は顔をあげていますが、下を向いている動物が多いですね。
震災時のみなさんの気持ちから、上を向いていきましょう、という思いがありました。
―先頭にカエルを描かれたのはなぜですか?
色々な大きさの動物を入れたかったのもあり小さいものを先頭にしたかったんです。動物だけではなく、両生類などそういう系統のものを入れたらおもしろいと思って。また普通に歩いているより、ぴょんぴょんって飛んでいる方が動きがでるかなと。
―今後も、こういう構成画に取り組まれますか?
ずっと単体で描いていくつもりです。
―ここにいる動物は動物園で描かれたのでしょうか?
のんほいパークに行きました。ウマの背にサルを乗っけるなどのアレンジはしています。
動物園の動物について
―動物園の動物は、人間を拒絶しているような野生の動物とは違い、野性味がそがれ、人間に近いところにいる動物という感じがしますが?
今までにも「野生の動物を見に行った方がいいよ」と言われたことがあるんですが、野生の生態というところではなく自分を投影していきたいという思いがあります。動物園の動物を取材し、その形を使って自分を表現していきたいです。ライオンなどは野生の険しい感じがあった方がいいと言われ試したこともありますが、それは必要なのか?と思ってしまうんですよね。ライオンもいつも狩りをしている訳ではなく、子育てのときなど優しい気持ちのときや狩りのときの厳しい気持ちのときなど色々あると思うんですよ。なので、様々な面を出してもいいんじゃないかという思いもあって、猛獣の当たり前な険しい表情では無い親しめる物にしています。
―制作にとりかかるときに、この動物を描こうと決まっているのでしょうか?
いえ、特に決めていなくてその時の感じで選んでいます。ふらっと動物園に行ったときに波長のあう動物がいるんですよ。そのときの自分のコンディションにもよると思うのですが。色々な動物園へ行くようにはしています。このあたりだと豊橋だけではなく浜松市動物園や日本平動物園などに行っています。
―動物園の動物は日中は寝ているような気がしますが?
そうですね。時期にもよりますが例えばカバは普段ずっと水の中にいます。陸上で日向ぼっこをしている事が多いのは4月・5月で、その時期に行って描くようにしています。
動物を描くときに意識するところ
―伝統的な花鳥画は、先人の描いたものを踏襲したり、写生をもとに構成しています。日本画家として動物画を描くにあたり、様式など意識されていますか?
そこは意識していないですが、1つ作品を描いていくごとに自分の今までの作品を少しでも高めていければと思っています。よくある事ですが私のような薄塗りの作品は、ややもするとこの色あの色と塗って、こういう風にしたら仕上がるという手順ができてしまったりするんです。そうすると描くだけの作業になってしまい、作品をつくる上でもおもしろく無くなってしまいますし工芸品のようになってしまうので、あえて手順は作らず以前の作品はなるべく見ないようにしてその都度試行錯誤しながら描くようにしています。
―動物を描くときのポイントなどはありますか?
全体の雰囲気みたいなものを重要視していますが、触覚というか、例えばネコは抱っこするとにゅっと伸びるでしょ。そういう柔らかさの感じとか、体感したものがでるといいなと思っています。
―今取り組んでいらっしゃる秋の日展の作品はどういったものになりますか?
チンパンジーにしようと思っています。
他の展示作品について
―この展示室の中の他の作品で、気になったものはありますか?
中村岳陵の《雙鶴》です。やはり凄いなと思いました。そんなに陰影をつけている訳でもないのにボリューム感や存在感がでていますし、線もきれいですよね。全体のフォルムをかなり研究してこういう構図にしていると思います。首や足の綺麗な形の選び方や空間の取り方を見てそう思います。
鈴木一正 経歴 1964年豊橋市生まれ。京都芸術短期大学日本画専攻科卒業後、日展・東京セントラル日本画大賞展などに出品、第5回川端龍子賞展優秀賞など数多くの賞を受賞。銀座松坂屋、名古屋丸栄、高島屋各支店などで個展を開催するほか、「日本画 こころの京都」展(京都文化博物館)、「琳派400年記念展 京に生きる琳派の美」(京都文化博物館)などに出品。最近では、焼失した豊橋・吉田天満宮の天井画(伝渡辺崋山筆)を白黒写真の輪郭をもとに制作や、八町神明社破魔矢の絵馬原画にたずさわり、十二支を主題に制作開始(全12回)。 |
この記事は 2021年06月20日に更新されました。