野田弘志

野田弘志

野田弘志
NODA,Hiroshi
1936~

1936年に韓国で生まれ、幼年時を中国で送った野田弘志は、終戦の年に両親とともに帰国して広島県福山市などで暮らし、中学・高校時代を豊橋市で過ごしました。この頃からデッサンや油彩画をはじめ、上京した後は阿佐ヶ谷美術学園洋画研究所に通うかたわら、洋画家・森清治郎について指導を受けるなど本格的に油彩画に取り組みます。やがて東京芸術大学に入学。在学中に白日会で賞を受賞するなど早くも洋画家として頭角をあらわし、同校卒業後はイラストレーターの職につくかたわら、白日展、安井賞展などで作品の発表を続けました。 1970年からは制作活動に専念。作品の傾向は黒一色を背景としたものになり、壁も境目もない空間に果実や鉱物が浮遊するかのようにあらわされますが、物質そのものを現実から引き離すことによって、その存在感や質感を強く引き出しています。この黒の時代は1970年代で終わりを告げ、1980年代になると金箔を背景とした華やかな作品が描かれました。 1983年には朝日新聞連載小説・加賀乙彦作『湿原』の挿絵を手がけますが、その丹念に描かれた鉛筆画は、高い密度と完成度によって注目を集めます。 1990年からはTOKIJIKU(非時)という連作が開始され、白や灰色の背景に化石や貝殻、骨、羽、器物などを配した作品をあらわします。この題名は万葉集に出てくる「ときじくのかくのこのみ」から来ており、「いつでも芳香を漂わせる実たちばな(=橘の実)」、または「不老長寿の木の実」を指します。ここで言う「ときじく(非時)」とは時間を超えたものと解釈され、時間の流れの中で滅びゆく存在(=生物)である骨や化石を描くことで永遠の一端を画面にとらえようとしているのかもしれません。 豊橋市美術博物館では1988年に「野田弘志展〈明晰なる神秘〉」を開催し、郷土ゆかりの作家として作品の収集を行っています。

収蔵作品

  • 《黒い風景 其の参》1973年

    《黒い風景 其の参》1973年

  • 《石》1981年

    《石》1981年

  • 《TOKUJIKU(非時)ⅩⅡWing》1993年

    《TOKUJIKU(非時)ⅩⅡWing》1993年
    (第12回宮本三郎記念賞受賞)

  • 《やませみ》1971年

    《やませみ》1971年

略年譜

昭和11年  韓国・全羅南道光山郡に生まれ(本籍地は広島県沼隈郡柳津村)、 同年のうちに家族とともに帰国。後に中国・上海へ渡る。 昭和20年 帰国し、広島県福山市で少年時代を送る。 昭和26年 静岡県浜名郡に転居。 昭和30年 愛知県立時習館高等学校を卒業。翌年、上京して阿佐ヶ谷美術学園洋画研究所に通う。また森清治郎にデッサン、油彩画を学ぶ。 昭和35年 白日会第36回展に初入選し、白日会賞を受賞。以後、同展に出品を続ける。翌年、白日会第37回展でプールブー賞を受賞し、準会員となる。東京芸術大学美術学部油画科を卒業し、東急エージェンシー企画調査部制作課にイラストレーターとして入社。 昭和37年 白日会会員となる。東急エージェンシーを退社。以後、デザイン会社を設立し、イラストレーターとして活躍。 昭和41年 『現代日本文学館 三島由紀夫』(文芸春秋社)の挿画を担当。 昭和45年 初の個展(銀座・三越)を開催。以後、画業に専念。翌年、第14回安井賞展に入選。以後、同展に出品を続けるほか、国際形象展、「明日への具象展」、日本秀作美術展などに出品。 昭和48年 1973新鋭選抜展(日本橋・三越)で優賞を受賞。翌年、東京造形大学非常勤講師となる。(2年間勤務) 昭和55年 1980AJAC現代日本のマニエリスム展(東京都美術館)に出品。 昭和57年 白日会第58回展で内閣総理大臣賞を受賞。翌年、朝日新聞(朝刊)に連載された加賀乙彦の小説『湿原』の挿画を担当(~1985年)。 昭和61年 白日会常任理事となる。翌年、加賀乙彦「ヴィーナスの笑くぼ」(『婦人公論』連載)および宮尾登美子「松風の家」(『文藝春秋』連載)の挿画を担当。 昭和63年 「花の表現」(埼玉県立近代美術館)に出品。 野田弘志展〈明晰なる神秘〉(東京・有楽町アートフォーラム、豊橋市美術博物館他)を開催。翌年、第3回具象絵画ビエンナーレに出品。 平成2年 ベルギーで個展(ゲント・ヴェラヌマン美術館)を開催。日本経済新聞に「写実のこころ10選」を連載。翌年、 「現代の視覚」展 (東京・有楽町アートフォーラム)に出品。’ 第14回安田火災東郷青児美術館大賞を受賞。第5回安田火災東郷青児美術館大賞作家展〈第14回受賞者野田弘志〉(新宿・安田火災東郷青児美術館)、「安田火災東郷青児美術館大賞受賞記念野田弘志展」(ふくやま美術館)を開催。 平成4年 「両洋の眼・現代の絵画」、安田火災東郷青児美術館大賞15周年歴代作家展(新宿・安田火災東郷青児美術館)、美しすぎる嘘〈現代リアリズム絵画展 PART1 スペイン―日本〉(日本橋・三越)、大和思考〈思いがフォルムになる時〉(大阪・近鉄アート館)に出品。翌年、 「豊橋市美術博物館所蔵 野田弘志展」(札幌・三越)を開催。日本ポルトガル友好450周年記念・新妻實・野田弘志展〈隠されている美神 石と骨〉(リスボン・GALERIA VALENTIM OE CARVALHO他)に出品。 平成6年 ベルギーで野田弘志展〈油彩・水彩〉(ゲント・ヴェラヌマン美術館)を開催。 第12回宮本三郎記念賞を受賞。 「第12回宮本三郎記念賞 野田弘志展」(日本橋・三越本店)を開催。 「輝くメチエ ~油彩画の写実・細密表現」(奈良県立美術館)に出品。翌年、 「洋画の展望 -具象絵画を中心に-」(福井県立美術館)に出品。

この記事は 2014年02月10日に更新されました。

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