戦後まもなく、それまでの伝統的「日本画」の在り方に危機感を募らせた日本画家たちが、新たな表現を求めてさまざまな試行を重ねました。既存の美術団体では若い世代が台頭するとともに、「世界性に立脚する日本絵画の創造を期す」として産声をあげた〈創造美術協会(現:
創画会)〉が注目を集め、その一方で京都の〈パンリアル美術協会〉などが先鋭的な「日本画」表現の探究を行います。後者では膠(ニカワ)と岩絵の具をひとつの表現素材と位置づけて「日本画」あるいは絵画すら超越するかのような革新的試みを展開しました。
本展では戦後日本画史を語る上で欠くことのできない福田平八郎、徳岡神泉、東山魁夷、高山辰雄、杉山寧、片山球子、加山又造、平山郁夫、堂本印象、横山操といった画家たちが日本画壇に新風を吹き込むべくさまざまな表現に挑んだ1950年代~60年代を起点に、〈パンリアル美術協会〉などの前衛グループや独自に活動を展開した画家たちの実験作、伝統素材を用いてさらなる表現の探究を行い「日本画」を超える新たな可能性を示した現代作家たちを取り上げます。また、中村正義をはじめとする郷土画家の動向、新たな世代の作家を顕彰するべく1999年より当館で開催してきた「トリエンナーレ豊橋~星野眞吾賞展」より三瀬夏之介ら歴代大賞受賞作家などをあらためてご紹介いたします。
戦後70年を経過し、革新者たちが挑んだ日本画の因習や伝統はすでに遠く、あらゆるジャンルや表現が混交し、「日本画」という呼称すら確たる拠り所を持たない現在、それでも「日本画」に新たな地平を切り拓いていくことは可能であるか、あらためて検証する機会となれば幸いです。
●会 期=平成28年10月29日(土)~12月11日(日)
月曜日休館 午前9時~午後5時(※初日は正午より)
●会 場=豊橋市美術博物館 1階第1~3室および特別展示室
●主 催=豊橋市美術博物館、中日新聞社
●観覧料=一般・大学生 800(600)円 小・中・高生 400(300)円
*( )内前売りまたは20人以上の団体料金。前売り券は豊橋市美術博物館、豊橋市二川宿本陣資料館、豊橋市役所じょうほうひろば、チケットぴあ、サークルKサンクス、セブンイレブンで販売いたします。
*「豊橋市敬老バッジ・シルバー優待カード」「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」のいずれかをお持ちの方は入場料が無料となります。
*「ほの国こどもパスポート」で東三河地域在住または在学の小・中学生は無料で観覧できます。
●イベント
○記念講演会
「生命体としての日本絵画」
講師=吉田俊英(美術史家・前豊田市美術館館長)
日時=平成28年11月3日(木・祝)午後2時~(予定)
会場=豊橋市美術博物館1階講義室(定員80名)
○ワークショップ
「あそぶ〈日本画〉~からだから風景を探そう!」
講師=漆原夏樹(日本画家・第6回トリエンナーレ豊橋大賞受賞作家)
日時=平成28年11月12日(土)午後1時30分~4時(予定)
会場=豊橋市美術博物館1階講義室
対象=小学生24名
内容=からだのなかに風景がある!?手や腕をつかって「山水画」(風景画)にチャレンジ。
墨や金箔といった日本画の画材や筆をつかった技法にも親しみます。
申込=電話受付(0532-51-2882)先着順
○アーティスト・トーク
「近代日本画は埋葬されたのか?」
講師=久松知子(本展出品画家)
日時=平成28年10月29日(土)午後2時~
会場=豊橋市美術博物館1階展示室(*観覧料が必要です)
○ギャラリートーク
日時=11月5日(土)、11月20日(日)、11月23日(水・祝)、11月26日(土)午後2時~3時
講師=担当学芸員
●展覧会の構成
○第1章「戦後日本画の展開―自然・心象・抽象」
戦後を代表する日本画家たちが「日本画」の危機が叫ばれた時代に「攻め」の姿勢で挑んだ作品を紹介。
福田平八郎、徳岡神泉、山本丘人、高山辰雄、小松均、片岡球子、秋野不矩、杉山寧、工藤甲人、近藤弘明、加山又造、平山郁夫、堂本印象、横山操
○第2章「革新の諸相―表現と素材」
日本画の革新を目指したパンリアル美術協会を中心に、さまざまな物質をとりこみ、絵画すら逸脱するかのような動きが1950~60年代にみられた。かつて「日本画」がここまで先鋭化したという事実に出会う。
山崎隆、三上誠、大野俶嵩、下村良之介、野村耕、不動茂弥、岩田重義、岩崎鐸、上田臥牛、堀尾実、水谷勇夫、大島哲以、佐藤多持、丸木位里・俊
○第3章「郷土日本画家の動向」
中村正義をめぐる豊橋の日本画壇の動きを検証。一地方の動向から当時の日本画壇がみえてくる。新たに増築された「新展示室」で代表作を公開。
中村正義、星野眞吾、平川敏夫、大森運夫、高畑郁子、森緑翠、永井繁男、伊東隆雄
○第4章「<日本画>―“越境”の時代から」
80年代~90年代には「日本画」を軽々と越境する画家たちがあらわれた。もはや現代美術の領域でとらえるべき「日本画」と、それでもなお「日本画」に可能性を見出す現代の新世代の画家たち。新世代としてトリエンナーレ豊橋の受賞作家や古画をベースに現代を描く画家などを紹介。
土屋禮一、小嶋悠司、諏訪直樹、岡村桂三郎、間島秀徳、山本直彰、八木幾朗、三瀬夏之介、石野善浩、田中武、加藤良造、新恵美佐子、漆原夏樹、高村総二郎、山本太郎、久松知子