石
野田弘志(のだひろし) 1936- 1981(昭和56)年 麻布、油彩 130.8×97.3 個展(東京・日動画廊)出品 昭和63年度購入
解説
野田弘志は絵画の基本である写生、つまり対象を観察して忠実に画面に定着させるという写実技法を駆使して制作を続ける洋画家です。昭和56年に完成したこの作品も例外ではなく、徹底した細密描写により仕上げられています。しかし、表現された内容には単純な静物画の枠を超えたある種神秘的な幻想性が感じられないでしょうか。硬質で重いはずの二つの石は暗闇の中に浮遊し、その前を張り詰めた鉄の鎖が横切り、朽ち果てミイラ化した草花と牛骨がひとつの塊として描かれています。個々のモティーフは、現実の物質を扱いながらも、それらの配置や構図には画家の演出が見られ、非日常的で暗示的な世界が展開しています。無機質な石と鎖は恒久的な存在感を伝え、過去において有機的な生命も物質と化し、四つの要素がすべて同質に共存しているのです。そこには、存在の永遠性を希求する画家の意志があり、象徴がみられます。この記事は 2014年02月12日に更新されました。